ラスベガス発 U.S.A.スプリット通信


ところで、コーンシロップは麦芽の代わり、または補完として醸造させるために使っているだけで、製造過程でアルコール化し、最終製品には含まれない(バド・ライトは、コーンシロップの代わりに砂糖を使っている)。ややこしいことに、日本の甘味料としてよく使われる「果糖ブドウ糖液糖(異性化糖)」も、同じコーンシロップという英語になり、こちらは確かに、アメリカではジュースの最終製品に、甘味として添加される場合が多い。

つまり、「コーンシロップを使って醸造した」ということと、「コーンシロップが添加された」ということの間には天地ほどの違いがあり、そんな違いを認知していない消費者の誤解を誘うことを狙ったブッシュ社の戦略というわけだ。CMは、結果として、ミラー・ライトが高カロリー商品であるという印象を形成する。

これには、誤報と変わりないという判断で、全米のトウモロコシ農業団体もブッシュ社に対して今回のCMについては、非難声明を出している。

ビールとテレビCMとの親和性

ミラー・クワーズの発売元であるモルソン・クワーズ社(以下モルソン社)は、翌月の3月には、さっそくこのCMのパロディ版をつくった。さきのCMに騎士たちとして出た役者たちが、CM撮影を終えると、みんな「ああ、疲れた!」と言って、こぞってミラー・ライト(だけ)を選んで飲み、「おいしいほうが勝ち」と字幕を出すという返し技で、ブッシュ社に対抗した。

しかし、それでも、意図的に誤解を招くCMによるマーケットシェアの流出は許しがたいとして、モルソン社はブッシュ社に対してCMの再生の禁止と、誤報を正すお詫び広告を出させる処分を求めて、提訴したというわけだ。

それにしても、SNSが、他のすべての広告手段を駆逐していくかと思わせるこの時代、あらためてビールとテレビCMとの親和性を印象づけられた。なるほど、そういえば、日本のテレビCMもビールの宣伝がとても多い。

SNSでの広告も結構だが、やはりテレビCMはなんとも表現しようのない安心や信頼を醸し出す。スーパーボウルのCMに5億円も出すのはかなりのことだが、ビール業界は、「ストーリーやユーモアを売ってこそ、ビールを飲んでいただける」と思っているのがわかる。

そのくらい、ビールはアメリカ人の生活に密着し、どのビールを飲むかが個々人のアイデンティティの表現でさえある。そしてテレビCMが下降する現代でも、ビールのテレビCMのコンテンツはますます進化している。

ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、「通常は、仲裁機関に持っていくことが多いこの種のライバル商戦だが、今回のコーンシロップ事件は訴訟にまでなった」として、ことの重大性を指摘している。

テレビ局のミルウォーキー・ニュースも、「業界全体としてビールのプロモーション活動を図る協議会があるが、今回のことでミラー・クワーズが会の脱退を検討している」と報道している。この戦い、夏のビールシーズンに向けて、ますます炎上しそうだ。

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文=長野慶太

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