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そして、テクノロジー。この話題になると、エンジニア出身らしく笑顔が多くなり、早口になる。

「ブロックチェーンって、00年代に語られた地域通貨の理想を実現するための技術でしょう。国に頼らずに通貨がつくれるんですよ。中央集権ではなく、地域やNCLみたいなプロジェクト単位で使える通貨をつくることもできます。日本全国、アジア各地にNCLの拠点ができれば、地域を超えて、国を超えて使える同じ通貨の経済圏域ができあがりますよね。同じ価値観を持つ人同士で支え合う社会福祉、新しい仕事が生まれる可能性もある」

流通させた通貨が使える地域では、「社会的弱者」に意外なニーズが生まれ、そこに通貨が集まる可能性があるのではないか。Commonsの共同代表である河崎純真が、前身であるプロジェクトでOSの実証実験を、北海道・南富良野で実施した。その実証実験ではコミュニティのハブとなっている「面倒見のいい人」に感謝を表す地域通貨が集まったという。子供の面倒を見たり、料理を作ったり。今までの資本主義経済では貨幣的な価値が生まれなかった、人と人をつなぐことの価値が評価されたのだ。

こんな仮説も導くことができる。

保育園がない過疎地域で、子育て経験がある高齢者が祖母代わりになって小さな子供の面倒を見て、両親は仕事に励む。ここに既存の社会の価値基準の「強弱」は存在しない。ポスト資本主義と彼が呼ぶのもそれゆえだ。今はまだ、地域創生という文脈で語られているが、テクノロジーを実装することで新しい道が開けるのだ。

最終的にCommons Coop(仮称)のような形で組合が出資し、組合員同士で支え合う生協をモデルにした協同組合へ発展させるという構想をもつ。組合ではテクノロジーがよそ者と住民をつなぐ道具となり、地縁や血縁を超えていく。

よそ者たちのユートピア

林たちが注力しているのは、瀬戸内海に浮かぶ小さな島を舞台に、さらに一歩踏み込む「社会実験」だ。従来の島民に加え、空いている土地や家を利用して、新しい社会づくりに参画する居住者を募る。林たちはネット上のシステムを整備し、島民に提供。ブロックチェーンを使い、島だけで使える地域通貨を発行し、島で賄うエネルギーなども自活を目指す。地道な島民説明会を重ねて合意を取り、近く事業は動き出す。理想と現実の間というより、 理想にかなり近づけた現実をつくり出すことに林のエネルギーは向けられる。

「例えば東京にいて仕事が行き詰まって、 新しいことをやろうとしても限界がある。 地方の方がチャンスは広がっている」

結局のところ、彼がつくりたいのは「よそ者たちのユートピア」なのだろう。競争が過熱する都市を離れ、地縁に関係なく 共感をベースに交じり合う場として地方に理想を託す。今のところ、同じ夢を見て、彼の元には多くの仲間が集まる。だが、まだ彼の理想をすべて体現したコミュニティは、世界のどこにも存在しない。見果てぬ夢で終わるのか、テクノロジーが地方の可能性を開花させ、楽園が現実となるのか。 現在の到達点を聞くと、林自身は「今はまだ入り口。地道にやっていくしかありません」と笑う。頂はさらに先にある。だが実現までの道は見えている、と。

文=石戸 諭 写真=小田駿一

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