LGBTからダイバーシティを考える


「りゅうちぇるがテレビに出ているから、自分も頑張ろう」と思ってもらいたい

りゅうちぇる:高校に進学してからは僕の考え方をわかってくれる人も増えてきて、だいぶ楽になりました。この頃からSNSをみてくれる人も少しずつ増えていて。

それでも、沖縄時代には辛い思い出の方が多かった気がします。高校入学後も、地元の人から両親に「りゅうちぇるが派手な服で歩いていたよ」とチクられたりして……。

杉山:僕も学生時代が一番辛かった気がします。いい子でいるために勉強して、学外ではフェンシングに励んでボーイッシュな女の子として振舞いました。けれど、そんなに頑張るのが辛くて、家に帰ってから一人で泣いていた。学生時代は、見える世界の範囲がとにかく狭いんですよね。

りゅうちぇる:インスタグラムでは、「親からメイクを禁止されて辛い」といった若い方からのコメントをよくいただきます。昔の僕もそうですが、そういう人は周囲の目線を強く意識するあまり、男らしさなどの「こういう人間にならなければ」に強く縛られてしまうことが多いです。

僕のような「女の子向けといわれる趣味をもっているけど、恋愛対象は女の子である男の子」って、たくさんいると思うんです。学校だけが世界の全てになってしまいがちな若い人に、「りゅうちぇるみたいな人がテレビに出ているんだから、自分も頑張ろう」と思ってもらいたい。

「りゅうのおかげで、視野が広がったよ」

杉山:当時、りゅうちぇるさんのような人がテレビに出ていれば、僕の辛さはだいぶ減っていたかもしれませんね。

「トランスジェンダー」の中には同性が好きな人も異性が好きな人もいますし、性的指向は人によってバラバラです。なのに、それらは「トランスジェンダー」として一括りにされがちですし、場合によってはトランスジェンダー同士でも「あんなのはトランスジェンダーとしておかしい」と差別してしまうことがあります。

多様性の中にある、さらなる多様性に気づけず「トランスジェンダーとはこうあるべき」と自分の知っている情報の中だけで思い込んでしまう。そういう刷り込みの怖さを、これまでたくさん見てきました。

ロールモデルの少なさが、その原因の一つではないでしょうか。多様な人々が活躍する姿を目にする機会がないために、限られた種類の人だけがトランスジェンダーの全てだと思い込んでしまっている人は少なくありません。

僕は深夜番組でオナベバー特集をやっているのを見て、「これが自分の世界かも」と思って初めて新宿二丁目を訪ねましたが、りゅうちぇるさんのインスタグラムにコメントする人のように、なかなか自分のロールモデルになる存在を見つけられずに苦しんでいる人は、たくさんいるでしょう。

そしてロールモデルの少なさは子供だけでなく、親にとっても辛いことです。男の子らしくなくても幸せなロールモデルを知らないから、りゅうちぇるさんのご両親も「男の子らしくしなければ不幸になる」と考えてしまったのかもしれませんね。

りゅうちぇる:タレントとしての活動がだいぶ成功してきた19歳の頃、長崎でのトークイベントに両親を呼んだんです。それまでも何度か東京にきてもらったことはあったのですが、仕事中の姿を見てもらうのは初めてでした。

僕が数千人のファンに囲まれているのを見て安心したのと同時に、僕が可愛いものが好きな自分に悩んでいたこと、そして同じ悩みを抱えている人がたくさんいると知ってくれた。「りゅうのおかげでたくさん視野が広がったよ、ありがとう」と言ってくれたんです。

杉山:それはすごく嬉しいですね。これまでの一面的でしかないトランスジェンダーのタレントばかり見てきた世代の方達にも、りゅうちぇるさんを通じてもっとたくさんの価値観に触れてほしいですよね。

りゅうちぇる:僕は最近歌手としても活動していますが、それはバラエティ番組とは違う自分を知ってもらうため。僕にも嫌いなものや、悩みがある。それを溜め込まずに歌として表現したいんです。

ポジティブな部分も、ネガティブな部分も本当の僕。どちらかだけだけでなく、両方を見てもらいたいし、そんな僕がどうやって育ってきたのかも知ってほしい。そうすれば、僕と同じ悩みをもつ人たちに少しでも元気になってもらえるきっかけをつくれる気がするんです。


後編は明日公開。昨年父親になったばかりのりゅうちぇるが、これはどうしても我が子に伝えたいと思うこととは。杉山文野と、これからの子育てを語った。

構成=野口直希 写真=小田駿一

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