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アヴェンタドール

量産車最速の称号


さて、ここで再び時計の針を2016年まで戻そう。ランボルギーニはV10エンジンを積む「ウラカン」の高性能モデルを作り上げ、ドイツの有名なニュルブルクリンク・サーキットに挑む。

全長20km超、172箇所のコーナーと約300mの高低差、荒れた路面に長い直線を併せ持つその北コースは、"世界一過酷な道"と呼ばれ、自動車メーカーが新型車の開発に使用することで有名だ。同時にスポーツカー・メーカーは自社製品の優れた走行性能を証明するため、このコースでラップタイムを競い合ってきた。

「ウラカン・ペルフォルマンテ」(ペルフォルマンテとはパフォーマンスを意味するイタリア語)と名付けられたクルマは、このニュルブルクリンクで当時の量産車最速となる6分52秒01のラップタイムを記録する。

ところが、それからわずか数カ月後、地元を荒らされたポルシェは新型「911GT2 RS」をこのコースに持ち込み、ランボルギーニを5秒近くも上回る6分47秒3というタイムを達成。さすがポルシェ、もはや最速の座は当分揺らぐことはないだろうと多くの人が思った。

しかし、少なくともランボルギーニは違った。ウラカンより大型のアヴェンタドールに革新的な可変エアロダイナミクスと伝説的なSVJの3文字を与えた新型モデルで、6分44秒97という驚異的なタイムを叩き出し、量産車最速の座を奪還したのだ。

アヴェンタドール

アヴェンタドールSVJの速さは、この可変エアロダイナミクスによる効果が大きい。フロントのスポイラーとリアのウイングに流れ込む空気を、開閉するフラップで制御できるこのシステムは、直線では空気抵抗を減らして速度を上げ、コーナーでは逆に空気を路面に張り付くための力として利用する。そんな空気力学を極限まで突き詰めたクルマのルーフを、ランボルギーニは切り取ってしまった。

疑問に思う人も多いに違いないが、ランボルギーニにとってその答えは明快だ。そんなクルマを欲しい人がいるから。

avennta

欲望が欲望を喚起する


ランボルギーニを購入する人のほとんどは、「300km/hを超える速度で走りたい」から買うわけではない。「300km/hを超えるクルマが欲しい」だけだ。その中でも一番凄いクルマに乗っている自分の姿を、ルーフを開けて周囲に見せることできる。それで十分、アヴェンタドールSVJロードスターの存在意義はある。

世界中に住む70数億人の中には、そんなクルマに大金を払う人が数百人はいるらしい。ランボルギーニはその人達に売れる数だけ作ればいい。開発にそれほど余分な費用は掛からない。アヴェンタドールSVJにアヴェンタドール・ロードスターのルーフ部分を組み合わせ、アヴェンタドールSVJより550万円、アヴェンタドール・ロードスターより900万円ほど高い値段を付けて売る。

そんなクルマに乗って誰かが街を走れば、それを見た誰かが「いつか成功してあんなクルマに乗れるようになりたい」と思う。欲望が欲望を喚起する。その連鎖が続く限り、ランボルギーニのスーパーカーは(たとえ電気自動車になっても)売れ続けるに違いない。

アヴェンタドール

レーシング・ドライバー出身のエンツォ・フェラーリは、レースで勝つために"高性能スポーツカー"を開発し、それを売ることでレース活動の資金を得た。トラクターやボイラーの販売で財を成した実業家のフェルッチオ・ランボルギーニは、レースをしなくても人々の欲望を刺激する"スーパーカー"を作り出した。

同じイタリアの高級車メーカーとして並べて語られることが多いフェラーリとランボルギーニだが、実は出自から創業者の理念まで、全然違う企業だったのである。

文=日下部博一

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