World Restaurant Awards審査員


タイには、日本と同じように「謙遜(グレンチャイ、KRENG JAI)」という文化があるが、それが故に、彼女はゲストへの敬意を示すために、あえて「自分を小さく」見せたのだ。そう気づいたのは、翌日のことだった。

パネルディスカッションの後のランチには、サフランを始め、バンコクの女性シェフのレストランがホワイエに10のブースを出したが、当然ながら会場で料理するので、料理の過程が見える。レヌシェフは、自分よりも年若いシェフの様子を慮り、キビキビと歩き回って会場全体に目を配る。いかにシェフとして、系列店を含め、厨房をきちんと取り仕切っているかがよくわかった。



話を聞くと「私は幼い頃から、母のタイ料理の店を手伝って育ちました。家の台所で料理した物を、店先で売るような、小さな店です。母は店でも家庭でも、全ての決定権を持っていました。私はその強さを、母から学んだのです」

チャンスはしたたかに掴むべし

会場から「『女性シェフ』と冠がついたアワードについては、どう思いますか?」と言う質問が飛んだが、「反対する」または「受賞しても拒否する」と言う声は一切なかった。

「女性シェフであると言うことは、チャンスが来た時に怯まずに「イエス」と言うだけではなく、自分からドアをノックする勇気が必要です」とレヌシェフはいう。そして、そのチャンスは決して多くない。チャンスがあるなら掴む、というのは当然のことだろう。そして、彼女たちは、表では「謙遜」しても、裏で全ての決定権を持つ、強い女性を見て育っている。

アワードが表向きに「差別的」に見えるかどうかということよりも、チャンスとして捉えるのは当然かもしれない。

そして、女性シェフたちは、実力を「証明する」努力を怠らない。

クリスティーナシェフは、サフランでのディナーの後、コラボレーションを行うタイ側のタムシェフと深夜まで打ち合わせを行ったあと、翌朝6時に起きて、ホテル近くのローカル市場に、たった一人で買い物に出かけた。

「タイ語が分からないから、携帯の翻訳アプリを使って、パンダンリーフとレモングラス、マスタードリーフを買ったわ。ちょうど、前日に飲んだカクテルにパンダンリーフが入っていて、それが気に入ったから使ってみようと思って」と話す。


パンダンリーフのフォームを使ったバラマンディ(スズキの一種)の料理

文=仲山今日子

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