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会社員、イタリア家庭料理の道をゆく


その晩は、修行も最後ということもあって、いつもよりさらに遅く帰宅。お別れの挨拶はゆっくり翌朝にすることにして、ジュリオにおやすみの挨拶だけして部屋に入ってびっくり。

なんと、泥だらけのまま放置していたにズボンがきれいに洗濯され、ぴっちりアイロンもかけられて、そしてそのうえには、袋詰めのノッチョーラが。それまでおさえていた気持ちが一気にこみ上げて、涙がとめどなく溢れてきた時のことは、今でも鮮明に覚えている。


ズボンとノッチョーラ


ソースもできてしまうマンマの裏技


さて翌年、私は再度カステッロでの修行を積むのだが、「今度はうちの空いてる部屋に泊まるといいわ」という女主人リゼッタの勧めを丁重に断り、再びピヌッチャの宿に泊まることを選んだ。またリゼッタにお願いしてカステッロへの出勤日数を少しだけ減らしてもらった。ピヌッチャの想いに応える時間を、今度こそ捻出したかったからだ。

そんな私にピヌッチャは待ってましたとばかりに様々なプログラムを用意してくれていた。長女の夫が料理長を務めているアルバの有名なリストランテの厨房に私が入れるよう手配してくれていたり、実兄が経営する隣町の大きなリストランテで手打ちパスタを習えるよう話をつけたてくれていたりと、少しでも多くの郷土料理を勉強できる機会を与えてくれたのだ。



しかしなんといっても私には、彼らの普段の生活を家族の一員のように共にしながら、ピヌッチャと一緒に昼ご飯や夕ご飯をつくる時間が、実はいちばんの勉強になった。

たとえば、ピエモンテ名物のバーニャカウダ。ざっくり言うと、茹でたニンニクを裏ごしして、アンチョビ、オリーブオイルと共に湯煎にかけてつくるソースだけど、彼女は、ニンニクはほんの少し、その代わりたっぷりのカブを使う。

見た目はどこから見てもいわゆるバーニャカウダなのに、ひと口食べるとなんとあっさり。野菜にディップしたり焼パプリカに載せたりして食べるバーニャカウダも、ピヌッチャ式になるとなんとパスタソースとしても使える。これがまたうまい。

牛肉の煮込みにも、タマネギ、セロリ、人参の「3種の神器」の他に、彼女はたっぷりのりんごを入れる。最後はこの煮汁の中でくたくたになった野菜とりんごを裏ごしすれば、とろりと甘くて濃厚なソースの完成。鍋ひとつで肉料理と上等なソースがいっぺんに完成してしまう、マンマならではの裏技だ。

文=山中律子

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