World Restaurant Awards審査員


タム・シェフが新しく任された「ウィン・レイ・パレス」では、スタッフは全員、タム・シェフにとっては新しいメンバーで、一からのスタートになった。新しいメニューを考え、何がこのレストランの基準になるのか、チームをトレーニングするところから始まる。

「チームごと連れてきて、これまでいたスタッフをそれに従わせるだけ、というようにはしたくない。一から、このウィン・レイ・パレスのチームとして育てていく」と考えているのだ。

私が、初めてタム・シェフの料理を食べたのは、昨年6月、ジェード・ドラゴンでのことだ。そのとき、タム・シェフは海外にいて不在だったが、素晴らしいクオリティの料理を楽しむことができた。とくに、小鳩のスパイス焼きとローストダックが絶品だった。

そして、今年9月、タム・シェフの「ウィン・レイ・パレス」での料理を初めて食べた。

タム・シェフのスタンスは、「あくまでも主役は料理」という考え方だ。ニコニコしながらテーブルにやってきて、「僕が喋るのなんか聞かなくていいから、ほら、食べて!美味しい時を逃さないで!」と料理を取り分けていたのが印象的だった。

「ジョエル・ロブション」で働いていた、リゾート全体のお菓子を統括するチーフパティシエ、ヨアン・シェフと力を合わせて、アジアの味を取り入れたマカロンや餅菓子などを盛り込んだデザート・ワゴンで小菓子を提供するなど、新しい取り組みも行なっていた。

そして、12月11日のミシュランの受賞式。前年までタム・シェフはガラ・ディナーをつくる立場だったが、今回は1人の客としてテーブルに着いていた。そこでは何を感じていただろうか。その後、「ウィン・レイ・パレス」でアフターパーティーを行い、関係者を招待し、料理を供したあと、朝4時までカラオケに行き、痛飲したと言う。

相手の体調も慮った料理


翌日のランチ。体に優しい鶏の白湯麺

私が、翌日、ランチを食べに訪問すると、テーブルには、シェフによる心づくしの料理が並んだ。一緒に席を囲んだうちの何人かは、朝まで一緒にカラオケしていたメンバーだ。

「遅くまで飲んだ後だから、軽くつまめる点心を出してみたのだけれど。あとは、麺などいかがかな? メインディッシュは食べられそう?」シェフは、前夜の疲れも見せず、いつものようにニコニコしながら、私たちの前に登場した。

「メインディッシュまでは食べられないかも」と伝えると、出てきたのは、優しい鶏の白湯スープに、胃に負担のかからない米の麺と脂の少ない鶏のささ身。二日酔いでもすっと体に入ってくる料理だ。「ビタミンも取らなきゃね」と、デザートには季節のフルーツと、柔らかく煮込んだ冬瓜とツバメの巣のスープを出してくれた。

「シグネチャーだから」「これが美味しいから」と自分の考えを押しつけるのではなく、相手の体調も慮った、温かみのある料理を柔軟に提供する。それが、タム・シェフの料理の魅力なのだ。

メニューづくりにも、そんなシェフらしい柔軟さが生きている。料理を始めてからずっと毎日市場に通っていると言うタム・シェフ。ランチの後に「今度ご一緒せてください」と伝えると、「今からいつもの市場に行くから来る?」と、その場で話がまとまった。

文・写真=仲山今日子

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