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佐藤が草卓球プレーヤー向けのスクールという着想を得たのは09年、財務部にいたときにヤマト卓球の買収にかかわったことがきっかけだった。ニッタク、バタフライと並ぶ卓球3大メーカーのうちの1つだったヤマトが経営難に陥り、スヴェンソンが手を差し伸べたのだ。その過程でこれまで気づかなかった卓球業界の本当の姿が見えてきた。

ヤマトは卓球が原因で倒産したのではなかった。卓球部門は堅調で、将来性も十分に見込めた。だがボウリング事業やアパレル事業に手を出し、その赤字が経営を圧迫していた。佐藤が振り返る。

「昔ながらの卓球場の数は減る一方、卓球の競技者人口は10年で4万人くらい増えていたんです」

卓球の競技人口は現在、約900万人と言われている。ウォーキング(2000万人以上)やゴルフ(1200万人)よりは少ないが、サッカー(約750万人)や野球(約730万人)よりも多い。

聞けば、卓球台のある公共の体育館等は何人もの利用者がキャンセル待ちをし、半ば「難民化」しているという。少子化でほとんどの競技が縮小傾向にある中、卓球は微増傾向が続いていた。大きな動きを必要としない卓球は、新たなシニアスポーツとして国民の間に根を深く張り始めていたのだ。

「ほぼ毎日、全国のどこかで200人規模の大会が開催されている。昼間から卓球をやっている人たちがこんなにたくさんいるんだって驚きましたね」

多くの草卓球プレーヤーたちは普段、友だち同士で打ち合ってるだけで、指導されることに飢えていた。佐藤が続ける。

「初心者が求めていたのは、ラリーを20球続けてみましょうという指導ではない。大会で1回戦を突破するために、サーブを強化したいとか、もっときちんとした指導だった。このニーズに応えられれば十分にビジネスとして成立すると思った」

現在、タクティブには約70人のインストラクターが在籍しているが、いずれもアマチュア時代にそれなりの実績を持っている人たちばかりである。

それにしても、なぜ、これほどのビジネスチャンスが放置されていたのか。佐藤が説明する。

「大手が参入するには卓球のマーケットはまだ小さい。市場規模は200億円くらいですから。ただ、会長も私も、卓球への思いがありましたから」

ニーズと、人の思い。その2つがそろって、初めてビジネスは動き始めるのだ。兒玉が話す。

「卓球で学んだことがいまも経営の根幹をなしている。その恩に報いるためにも、強化だけではなく、今度は普及の面でも貢献したいと考えていた」

もうひとつ、未開拓な部分が残されていた要因を挙げるとすれば卓球業界の閉鎖性だろう。国内で公式戦に出る場合、ウェアも日本卓球協会の公認のものでなければならない。ラケットやボールならまだしも、さほど競技に影響しないウェアにまで規制をかける競技は珍しい。

また、さまざまな手続きにおいて申し込みはファクス、費用の支払いは現金書留が主流だった。ネットをほとんど活用してこなかったせいで情報が広く行き渡らなかった。

スヴェンソンの子会社、スヴェンソンスポーツマーケティングは、今年5月、大会情報等を管理するサイト「T-plus」を開設した。佐藤は言う。

「マラソンでいえばランネットのように、参加者、主催者の双方にメリットのある、全国の大会情報をひとつにまとめるサイトが必要だった」

1号店を出店する際、佐藤は十分に手応えを感じていたが、社内では否定的な見方が大勢を占めていたという。佐藤が振り返る。

「ほとんどの人が失敗すると思っていた。僕は全国チェーンにしたいと思っていたのですが、そこまでのビジネスにはならないだろうと」

その予想に反し、自由が丘店が軌道に乗るとタクティブは急拡大していく。1号店を出店した11カ月後、15年8月には町田店がオープン。町田を選んだ理由は、会員のリクエストだった。町田からわざわざ自由が丘まで通ってくる会員が多く、聞けば、やはり地元の公共施設の予約が取れないのだという。佐藤は「町田は想定外だった」と振り返る。

「自由が丘とはイメージがだいぶ違いますからね。町田に出すとしたら、タクティブだからできることをしないと意味がない。そこで駅から徒歩1分の路面店にしました。『こんなところに卓球場があるの?』というコンセプトは表現できたと思います」

文=中村計 写真=前康輔

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