無能だった私を変えてくれた凄い人たち


じつは、オリエンを受けた時に、そのことは我々も宣伝部の方々と議論を尽くしたのでした。しかも、「分かりました」と言って帰っておきながら、プレゼンでは、例年通りに母親が娘へみそ汁をつくる設定の企画を提案して、翻意を、再度、試みたのでした。

しかし、宣伝部の島崎さんが「私たちも、このシリーズの意義、価値を分かっています。皆さんの仰っていること、こうやって提案してくれた意味も十分に理解しています。しかし……今年は、この設定で制作してほしい」と、決意と真心のこもった言葉と共に、頭を下げて頼まれたのです。
  
電通の味の素チームの中には、物事に筋を通す男気のある島崎さんファンが多かったので、「島崎さんがここまで仰るなら…」とオリエンに沿った設定の案採用を受け入れたのでした。

希林さんに、そんなことを手短に話したところ、

樹木:松尾さんは、どういう意図でこの企画をしたの?

松尾:「同年代の女性が料理するのを見ることがきっかけになって、自分も料理することがある」というデータがありまして、それに沿って…。

樹木:あなた、何の仕事をしてるの!?

それまで、テレビからベルギー戦の実況や歓声が漏れ聞こえていましたが、この瞬間から、スイッチが消されたように無音の世界になりました。

樹木:あなた、データを信じるって言うの?データなんてね、いくらでも都合よく作れるのよ。あなた、クリエイティブを名乗る仕事してるなら、自分の感性を信じなさいよ!情けない!そんな仕事の仕方してたら、これからあなた、強い表現なんてつくれないわよ!

初めて耳にする希林さんの強い語調に気圧されました。

松尾:・・・はい。

樹木:私は単にCMに出てるんじゃないの。もし、味の素さんになんかあったら、自分も責任を取る覚悟で出てるのよ!それをあなた、データに沿って企画をつくったなんて言わないでちょうだい!人の気持ちを動かす表現をつくるってね、そんなことじゃないのよ!

思いっきり殴られました。
自分の企画を何かのせいにして、盾の中に隠れていた自分を、盾ごと殴られました。許してもらえるだろうと軽々しく発言をした自分を恥じるしかありませんでした…。
(後編へ続く)

連載:無能だった私を変えてくれた凄い人たち
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文=松尾卓哉

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