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一例をあげよう。日米の一流大学では、1・2年生用には、「経済学入門」の授業が用意されている。経済学部生にとどまらず、文科系の多くの学生に人気の科目である。日本では、東大でも慶應義塾大学でも、数百人の受講生を、一人の教授が「板書」中心の講義で教えて、期末試験の採点も一人で行う。モチベーションの高い大学1年生でない限り、この授業で得るものは少ない。一方の教授陣も、採点の負担の大きな授業は担当したくない。

アメリカでは、ハーバード大であろうと、コロンビア大であろうと、一流の教授による「講義」とは別に、大学院生のティーチング・アシスタントを十数名雇用し、彼らが週2回の補習と毎週だされる宿題の手ほどきセッションを行っている。1年間(実質9カ月)で、いやおうなく経済学の基礎を叩き込まれることになる。この「経済学入門」の授業の付加価値は、まさに12倍の差がある。

第三に、「閣議決定」に、「国際化」をどう進めるかの観点がまったくない。グローバリゼーションの時代の「人づくり革命」というからには、国際的にインパクトのある「革命」でなくてはならないだろう。日本の大学が、世界ランキングの順位を落としていることは良く知られている。表2のとおり、最新の調査(THEランキング)では、東大が46位、京都大学が74位で、他大学は200位以下である。


日本の大学のランキングを引き下げている要因のひとつが国際化の遅れである。外国人学生比率でみると、ハーバード大学(6位)で26%、コロンビア大学(14位)で32%であるが、東大で10%、東京工業大学で13%と低い。京都大学が8%、慶應義塾大学で7%と、全く国際化されているとは言い難い。

世界で戦える教員を擁して、外国人学生が競って学びたいというカリキュラムや授業を提供することも、日本の一流大学の責務。それを後押しするのが国の施策である。残念ながら、今回の「閣議決定」には、この国際化の観点が完全に欠落している。

授業料無償化の対象に外国人が含まれるのかどうかもわからない。おそらく、この人づくり革命は日本人を対象にしたものと推察されるが、外国人からは授業料を徴収する、ということで間違いないのだろうか。日本の大学の外国人学生数や外国人教員数を増やすためには、魅力のあるカリキュラムづくりが必要だ。高い授業料を払ってでも日本で学びたいという優秀な学生を惹きつけなくてはいけない。

高い授業料を徴収して、それだけの価値がある授業を提供する。そのためには優秀な教授の給与も上げなくてはならない。日本が安かろう悪かろうの大学を目指すのか、高くても学生に付加価値をつける大学を目指すのか。ここは思案のしどころだが、高等教育無償化の今回の試みはどうも、前者のようで、残念だ

文=伊藤隆敏

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