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Forbes JAPAN 編集部 編集長


「第一さんはいいですね。こんな時代にそんなことができて」

経営品質経営を任された渡邉は、同業者からそんなことを言われることがあった。生保がバタバタと倒れて、企業が少しでも数字を上げようと血眼になっているときに、渡邉は「顧客本位」「独自能力」「社員重視」「社会との調和」という4つの基本理念をもとに、日本経営品質賞のアセスメント(評価)基準にある8つのカテゴリーを地道に調査していた。

「リーダーシップと意志決定」「個人と組織の能力向上」といった、およそ売上げに直結するとは思えない風土づくりで、それが外部からは道楽のように見えたのだろう。しかし、渡邉はこう言う。

「それまで何となく会社って自分ではわかっているつもりでした。でも、これだけ大きな組織をすべてわかっている人間なんて、ほとんどいません。これまで私の知る会社とは、所属長の語る言葉の中にしかなかったのです」

課題を洗い出し、理想との隔たりを埋める。この経営品質経営というテーマの回答が「生涯設計」戦略だった。

それまでの保険の勧誘は、「一家の大黒柱に何かあったら大変ですよ」と、世帯主を対象としたものが主流だった。しかし、人口減少の時代で、営業の体制と意識を変える必要があった。

顧客を3つの「時間」で分けた。生命保険契約の「提案時」「契約中」「保険金お受取り時・満了時」である。「お客様の一生涯をお守りする」をコンセプトにして、営業職員と顧客の接点のありようを変えて、寄り添う形にした。さらに、あらゆる年齢層の顧客の人生設計を行うことにした。


渡邉自らが執筆した「経営品質賞報告書」

01年、第一生命は日本経営品質賞を受賞。渡邉は3年をかけて申請書となる「経営品質報告書」をまとめあげていた。A4用紙で100枚。8つのカテゴリーに分類されたこの詳細な分析が、第一生命の経営思想であり、97年問題の答えだった。

さらに渡邉にインパクトを与えたのは、翌02年に日本品質経営賞を受賞した、高知県のネッツトヨタ南国である。小さな組織だが、トヨタ系列ディーラーのトップレベルで、価格競争をしないのに、カーディーラーの激戦区で売り上げを10年間で2倍に伸ばし、顧客満足度12年連続1位。ここに渡邉が社長になって始める「DSR経営」のヒントがあった。

もう一つ、思想形成のなかで渡邉を悩ませたのが、経営思想の大転換となる「株式会社化」だった。

渡邉らが社長室の森田を訪れ、相互会社から株式会社への転換を提言したのは、生保業界が真っ逆さまに転落していた頃である。森田の答えは、「お客様にとっては証拠不十分」だった。(後編に続く、11/3公開)


文=藤吉雅春

トヨタマツダ

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